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2019年7月29日月曜日

フライスXM-20主軸のメンテナンス(その3 ベアリング交換)

さて、色々仕込みが終わって、いよいよ主軸ベアリング交換。



今回肝になるのが、テーパーローラベアリングの外輪の取り外し。
テーパーローラベアリングは内輪+ローラと外輪が分離する構造になっている。外輪をハウジングから抜くには面取り部の隙間に何か引っかける必要がある。マイナスドライバーを突っ込む、という訳にもいかないので引き抜き治具を作った。

写真の上がM12X200のスタッドボルトと治具用フランジナット。(購入品)
下左がコーンナット。(M12、60° SCM435)
下中央が引き抜き爪(S45C)下右はキャップ(フライス主軸上に付いていた物を流用)

作り物の材質は、深い意味はない。鉄系の手持ち材料で径の近い物を使った。
引き抜き爪は旋盤→メタルソーで3分割→バーナーで炙って水焼き入れ→オーブンで300℃焼き戻し。
テーパーローラーベアリングの外輪引き抜き用治具

組み合わせた状態。
テーパーローラーベアリングの外輪引き抜き用治具組み合わせ説明


この状態で外輪にはめ込んでナットを締めると、引き抜き爪が外輪奥の面取り部に引っかかった状態でテーパーで外輪に押しつけられ、さらに締めると外輪が抜けてくる。
作るのは手間がかかったが抜くのは拍子抜けするほど簡単。これなら、爪の熱処理はしなくても問題なかったと思う。
爪部分
テーパーローラーベアリングの外輪引き抜き用治具爪部

引き抜くベアリング外輪
テーパーローラーベアリングの外輪圧入状態


外輪を抜いた後の主軸ハウジング。
テーパーローラーベアリング外輪を外した後の主軸ハウジング


 外輪が抜けたら、新しいベアリングを圧入する。
用意したベアリングは以下
①テーパーローラーベアリング 32906 内径Φ30、外径Φ47 巾12 NSK
②深溝ベアリング 6905C3 内径Φ25 外径Φ42 巾9 NTN
③ニードルスラストベアリング AXK1105 内径Φ25 外径Φ42 巾2 NTN
④軌道輪(内輪)WS81105 内径Φ25 外径Φ42 巾3 NTN
⑤軌道輪(外輪)GS81105 内径Φ26 外径Φ42 巾3 NTN

深溝ベアリング用とテーパーローラベアリング外輪用圧入治具は旋盤で作った。材質はA5056、外径はベアリングよりちょっと小さく、内径はボルトに合わせてΦ12、テーパーローラー側は外輪の穴径に合わせてガイド溝をつけた。

ニードルスラストベアリング③~⑤は新規投入。初期の仕様ではボールスラストベアリングが入っていたのだが、随分前に、音がうるさいので取り外して、深溝ベアリングにスラスト引張方向荷重をもたせて使っていた。ボールスラストベアリングを高速回転させると、ボールにかかる遠心力がボールレースにくさび効果を発生させて玉当たりが不安定になるので良くない、という話があり、じゃあボールレースが平面のニードルスラストベアリングでは問題は起きないのか、というのが興味があるので、試してみることにした。
フライスXM-20主軸用ベアリング一式とベアリング圧入治具


テーパーローラーベアリング外輪と深溝ベアリングを主軸ハウジングの両端に当てて、それぞれ圧入治具を当ててボルトを締めれば圧入完了。治具を作るのは手間がかかるが、作業は一瞬。
フライスXM-20主軸ベアリング圧入作業



主軸のテーパーローラーベアリング内輪が勘合する部分。実際に当たっていた部分は軸が摩耗して5/1000くらいマイナスしている。手前の減っていない部分は+4/1000程度。
フライスXM-20主軸大端側ベアリング当たり部摩耗


勘合するベアリング内輪はほぼ0。(写真だと+2/1000くらいに見えるが)
テーパーローラベアリング32906の内輪穴径


 嵌める時、途中は圧入だが奥はガタガタ、という状態になるので、嫌気性接着剤で接着することにした。もう一回ベアリング交換することになったらはずすのが面倒だが、このまま使うとシャフト当たり面がどんどん減っちゃうからなぁ。

脱脂してからシャフトのベアリング当たり面にLoctite638を薄く塗って、
フライスXM-20主軸テーパーローラーベアリング内輪接着準備


手前は結構きついので、塩ビ管を当てて叩いた。 
フライスXM-20主軸テーパーローラーベアリング内輪圧入作業


接着剤が僅かにはみ出している。まあ、こんなもんでしょ。
フライスXM-20主軸テーパーローラーベアリング内輪圧入後


主軸を入れたら深溝ベアリングが出てきちゃったので、これも塩ビ管で再度圧入。
(本当は写真のように外輪を押すのではなく、内輪側を押すべき。圧入力が低いから、とちょっと手抜き)
フライスXM-20主軸深溝ベアリング内輪圧入作業


次、ニードルスラストベアリングの組付け。
ニードルスラストベアリングの軌道輪は、内輪側Φ25をシャフトに当ててみるとちょっときつい。寸法は軸側+5/1000程度、穴側ほぼ0。通常の圧入代だし、入らない事もないが、後で分解が大変になるので、旋盤で5/1000程さらった。超硬のバイトだとこのくらいの硬さは気にせず削れるので気分がいい。
ニードルスラストベアリング軌道輪をミニ旋盤ML-210追加工


ニードルスラストベアリング周り部品
フライスXM-20ニードルスラストベアリング周り部品


グリスを塗って組み込んで、ダブルナットで当たり調整して出来上がり。
グリスはマルテンプSRL。
ちなみに、ニードルスラストベアリングのスタック高さがボールスラストベアリングに比べて薄く、最後まで締めきれなかったので、ボールスラストベアリングの軌道輪をスペーサとして一枚入れた。
フライスXM-20主軸ユニット(ベアリング交換後)


組み立てて振れチェック。
コレットチャックにΦ10ピンゲージを咥えて5/100。んー、ちょっと大きい。
主軸を揺すった時の変位も5/100程度。(荷重にもよるが)これはこんなもん。
フライスXM-20主軸振れ測定(コレットチャック)


主軸テーパー穴で測ってみる。5/1000程度。上々。
フライスXM-20主軸振れ測定(主軸端)


コレットチャックのテーパー穴側は2/100。なるほど。
フライスXM-20主軸振れ測定(コレットチャックテーパー穴)


主軸の偏心は十分小さいので、後はコレットチャック側の問題。
コレットチャックを修正するか、チャック本体とコレットの位相を管理するか、今度考えよう。

動力をいれてみると、回転音がえらく静かになってびっくり。シューンとなめらかに回る。ほぼ、タイミングベルトの噛み合い音だけ。手間をかけただけの価値はあったと思う。後は削ってどうだかお楽しみ。

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2019年7月18日木曜日

フライスXM-20主軸のメンテナンス(その2 テーパー抜き用キャップを作る)

こんなものを作った。フライス主軸テーパー抜き用キャップ。


家のミニフライス XM-20では、主軸テーパがMT-2で、ドローボルトが主軸を貫通している。ミーリングチャック等を取り付けるときはドローボルトを締めるだけだが、取り外すときはボルトを緩めて上から叩く必要がある。

そもそもの設計意図では、主軸端にはねじ込み式のスチールキャップがあって、クイルをロックしてドローボルトを緩めるとドローボルトがキャップに突き当たってテーパー部を押し出す、と考えているようだが、テーパーを押し出す抵抗が大きいので、実際にはドローボルトがキャップに突き当たった後は、クイルのロックが滑って主軸が下に押し出されてしまい、テーパー部はまず抜けない。


いままでは、しょうがないので大きなハンマーでドローボルトの頭を叩いてテーパーを抜いていたが、主軸のベアリングが痛むので、ベアリングを交換するまえに対策を打っておくことにした。(フライス主軸のメンテナンス(その1 チェックとグリスアップ)

作った部品は、2つ割りカラーとキャップが一体になったような形。これを主軸端に取り付ける。チャックを取り外すときはドローボルトを緩めていくとボルト頭がテーパー抜き用キャップに突き当たって、それ以上緩めるとテーパーを押し出す仕組み。当初作ったものは、押し出す際に2つ割り部分が滑って上に上がってきてしまうので、

あとから押しねじ(M5 2本)を追加した。


結果、良いようです。主軸が回転しないようにフックレンチで押さえて六角レンチで
ドローボルトを緩めると、ちゃんと外れた。

部品製作過程は省略だが、写真を1枚だけ。
親亀子亀で旋盤をフライスのテーブルに載せて、外周のR形状を削っているところ。
速度速めなのでキリコが焼けてきれい。(主軸回転3100rpm、切り込み0.04、F150、材料径Φ28~38 刃物は超硬自作)(NCだからのんびり写真なんか撮っていられる。)


これで安心して主軸ベアリング交換に取り掛かれる。

2019/12/17追記
このCAPだと、ハンドルでZ軸を下げる時CAPが主軸プーリーにつっかえてストロークが取れない難があり、下記「テーパー抜き用CAP再製作」で作り直した。

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2019年7月14日日曜日

真空ポンプによる自転車リアショックのエア抜き(CaneCreekDBinline)


前回メンテナンスした真空ポンプを使って自転車リアショックのエア抜きをした。

真空ポンプによる自転車リアショックのエア抜き 装置全景


エア抜き装備の構成は以下。

・アダプタを作ってショックユニットのブリードポートにチューブを接続
・チューブを真空ポンプ側とオイル側の二股に分岐
・真空ポンプ側バルブは3方弁として、バルブを閉じた時は真空ポンプ内の負圧を開放。(ポンプ内が負圧のままだとポンプを止めた時にポンプオイルがシリンダー内にどんどん吸い出されてしまう。)
・真空ポンプ側に真空計とフィルタを入れた。

今回、空圧系の部品を初めて使ったが、安くて使い勝手がいいのに感心。色々作れそう。

作業手順は以下。
1.ショックユニットのブリードポートにチューブを接続。
2.オイル側バルブを閉じてポンプ側バルブを開け、ポンプをON。
3.オイル側バルブを少し開けて、バルブまでオイルを吸い上げたら閉じる。
4.圧力が下がるまで待つ。(10分くらいか)
5.ポンプ側バルブを閉じてポンプをOFF。
6.オイル側バルブを開けてショックオイルを吸い上げる。
7.ショックオイルがエアチャンバーまで入ったらオイル側バルブを閉じてショックガスチャンバー上の蓋を開け、ショック内の負圧を抜いて、もう一度蓋を閉める。
8.ブリードポートのチューブを外してブリードポートボルトを取り付ける。
9.ショックユニットを手で伸縮させて残ったエアを抜く。
10.ショックユニット組立。

ポンプを使わない場合よりはるかに簡単だったが、不満も。細かいのを除くと、結局手で伸縮させないと完全にエアが抜けない、という事。
これは真空度が足りない、とか、ショックユニットにオイルが入った状態で負圧を掛けられない、とか、負圧を掛け始めてからの待ち時間が足りないんじゃない?とか、色々考えられる。まあ、次にやる時は改良しましょう。


ポンプ単体で確認したとき(-0.097MPa)よりちょっと高い。リークがあるのか、もっと待つべきなのか。
真空ポンプによる自転車リアショックのエア抜き エア抜き時負圧


今回作った部品はこれ。CaneCreekDbinline用オイルブリードアダプタ。材質はS45C快削。
右側のネジはM4X0.5。その左はOリング溝、S-3用。右側端面はチューブフィッティング取り付け用にM5メネジを切った。中心穴は右から10mm程Φ1.5ドリルを入れ、左からΦ2で貫通させた。(ネジ周辺は折れそうなので細目の穴にしたが、Φ1.5ドリルでこの長さを貫通させるのはちょっと手間がかかる。)
CaneCreekDbinline用オイルブリードアダプタ

旋盤でのネジ切りは久しぶりだ。
CaneCreekDbinline用オイルブリードアダプタ 旋盤によるネジ切り


ネジ太さを、旋盤にチャックしたまま現物合わせで確認。
CaneCreekDbinline用オイルブリードアダプタ ネジ勘合確認


このアダプタにはS-3のOリングをはめ込むわけだが、ネジ部を通過させる時に傷がつかないよう、挿入ジグを作った。材質はジュラコン。(左側の黒い部分)
CaneCreekDbinline用オイルブリードアダプタ Oリング挿入治具

テーパー側からグリスを塗ったOリングを押し込むとつるっと入る。
CaneCreekDbinline用オイルブリードアダプタ Oリング挿入状態


ショックユニット本体の話も色々あるが、長くなるのでまた別途

2019年7月11日木曜日

真空ポンプメンテナンス


 ジャンク扱いの真空ポンプを手に入れた。
油回転ポンプという形式、島津製の年齢不詳。
真空ポンプは前から気になっていた。この手の機器を、私は勝手に「人類の技術遺産」と呼んでいる。ネジの発明とか蒸気機関の発明、みたいな。油回転真空ポンプは1905年にドイツのゲーテさんが発明した形式。
今回、真空そのものも欲しかったが、ポンプの構造も見たいので、分解しやすいようなるべく古そうなものを探した。新しいちゃんと動いているのを分解するのは気が引けるし。本当は別体式のものが良かったのだが、どうも高いので、直結式で手を打った。

通電するとモータは回るので、オイルを入れたら動くだろうけど、全分解してクリーニング。
 rotary vacuum pump SHIMADZU SC-100


 ボルトを外してプラハンマーで軸方向に叩いて外す。まずはオイル室カバー。
パッキンで貼り付いている。
SHIMADZU SC-100 オイル室カバーを外す


続いて、オイル室とシリンダーの隔壁。
こちらはパッキンはないが、スプリングピンで位置決めされている。
SHIMADZU SC-100 オイル室とシリンダーの隔壁を外す


 隔壁のシリンダー側。ベアリングは。擦れ痕はあるが、案外きれい。ベアリングは6001。
SHIMADZU SC-100 オイル室とシリンダーの隔壁


 シリンダー-モータ間もスプリングピンで位置決めされている。
SHIMADZU SC-100 シリンダーを外す


外したシリンダー。
SHIMADZU SC-100 シリンダー


 ベーン。FRPのようだ。それ程減っていない。
SHIMADZU SC-100 ベーン


シリンダーとモータ部の隔壁。ちょっと傷があるのでダイヤモンドヤスリで軽く舐めた。

SHIMADZU SC-100 シリンダー-モータ隔壁


モータ回転子のシリンダー側ベアリング。NTNの6203。特に問題ないので交換はしない。

SHIMADZU SC-100 モータ回転子のシリンダー側ベアリング


モータ回転子の反対側ベアリング。こちらは何故かKOYOの6201。どちらか交換したのかな。こちらも問題なし。
SHIMADZU SC-100 モータ回転子の外側ベアリング



分解した部品一式。
SHIMADZU SC-100 部品一式



組み立ててオイルをいれる。オイルは真空ポンプ用。
真空ポンプ用オイル TASCO TA117-1


入れ口はここ。排気口のキャップを外して入れる。
SHIMADZU SC-100 排気口



量はオイルゲージのセンター狙い。200mlくらい。
SHIMADZU SC-100 オイルゲージ


これで完成、と思ったら、一晩置いたらオイルが下に垂れている。シリンダーの合わせ目から漏れているようだ。
SHIMADZU SC-100 オイル漏れ



こういう時は液体ガスケット。(かな?)元はどうしていたのかわからないのだが。(面精度だけでオイル漏れを止められる程の仕上げではないし、パッキンを追加するクリアランスはない。シール剤を塗った痕跡もなし)
定番のスリーボンド。

Liquid Gasket ThreeBond 1211


オイルを抜いてからもう一回ばらして、ついでに前回見なかったリードバルブもばらして確認。問題なさそう。
SHIMADZU SC-100 バルブ


液体ガスケットはシリンダーの当たり面に薄く延ばす。

SHIMADZU SC-100 シリンダーに液体ガスケットを塗布 表


反対面も塗って再組立。
SHIMADZU SC-100 シリンダーに液体ガスケットを塗布 裏


締め付けるとちょっとはみ出すくらい。内側の油溝側にどれだけはみ出したか気になるが、まずはそのまま動かすことにする。
SHIMADZU SC-100 液体ガスケットはみ出し状態


翌日油漏れチェック&試運転。
オイル漏れは無し。負圧は-0.097MPa(G)(ゲージ圧)。
絶対圧は、大気圧としてざっくり0.1MPaを足して、0.003MPa(A)。
定格ラベル表記からはもっと下がってもいいのだが、ポンプのコンディションの問題か、リークの問題か、ゲージの精度の問題か。
いずれにしてもゲージ圧で-0.1MPaを下回ることはないわけだから、このゲージで見れる精度はこの程度、と考えるのが無難な気がする。
SHIMADZU SC-100 再組立後試運転

これで何をするかはまた別途。