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2018年6月19日火曜日

丸パイプチャッキング冶具を作る(その3 質問と回答)



丸パイプチャッキング冶具を作る その3 質問と回答 フロントフォークのダンパーユニット説明



嫁の友人(=工学系ではない)からブログ内容で質問された。
ダンパーユニットが自転車部品であることは分かったが、どこで何をしているのかさっぱり分からない、解説してほしい。
うーむ、思わぬ人からの思わぬ突っ込み。
他にも、冶具とはなんと読むのか?にすいで正しいのか?そもそも冶具とは何か?ハイドレーションパックとは何か?どのくらいの大きさなのか?もっとまめにUPしろ、等々。

取り合えず解説したが、冶具とは何か、と問われても、
なんだか的確な解説になっていなかったような。
面白いので、改めて、順次回答していくことにした。
取り合えずダンパーユニットの件から。


こんな自転車があったとします。
矢印の部分がフロントフォーク。

自転車全景



これの下側のナットを外し、

フロントフォーク下側




上側のネジを回すと、




こんな具合にダンパーユニットが出てきます。




これは、オイルの抵抗を利用して、サスペンションが動きすぎないようにする部品。

こんなもんでどうでしょう?


基本的に、このブログでは、書き込み過ぎないようにしているのだが、
質問は大歓迎。なるべく答えるようにします。
それにしても、非工学系の人が読んでくれるのは、想定外。
どこに面白みがあるのか、いまだに理解できていない。



kenginnering;

2018-06-19作成
2018-06-23更新



2018年6月10日日曜日

丸パイプチャッキング冶具を作る(その2 構造解析による形状検討)

3.チャッキング冶具最適形状検討

丸パイプチャッキング冶具は完成し、ダンパーユニットのメンテナンスもできたわけだが、万力でダンパーユニットを咥えた時の違和感が気になる。
軽い力でしくっと固定できることを期待していたのだが、なんだか固定力が弱くて、しっかり固定するとダンパー筒を変形させそうな手勘。
冶具の剛正不足か?と構造解析で様子を見てみる。
1/8モデルを作って、筒と冶具、冶具と万力口金を接触解析にする。
(X軸、Y軸、Z軸それぞれ1/2)

(1)荷重条件検討
実際に分解したときのモーメント荷重は、300mmのモンキーレンチで10kg程度の荷重を掛けたので
0.3*10*9.8=29.4N・m

ダンパー筒の半径を12mm、冶具とダンパー筒の摩擦係数を0.5として、
滑らないために冶具にかける荷重は、
29.4/12*1000/0.5₌4900N

1/8モデルで掛けるべき荷重はこれの1/4で1225Nとなる。

(2)解析モデル
こんな形にした。
オレンジがパイプ、藤色がチャッキング冶具、グレーが万力口金。


(3)解析結果
接触解析は時間がかかるイメージがあったが、
あっという間に終わった。(200秒程)





冶具の脇の剛性が低いので、楕円変形がやや強い印象。
冶具幅を振って最適値を探る。


冶具幅は全幅だが変形量はいずれも半径値。縦は上方向が+(半径が小さくなる方向)
横は右方向が+(半径が大きくなる方向)、縦横差は縦+横とした。

現状は冶具幅26mm程度、ダンパー筒径Φ24mmに対してぎりぎりだが、
冶具幅35mmにすると、変形量が約1/3となる。そこから先は広げてもあまり変わらない。
この状態で、縦横差は0.1mm程度あり、ちょっと大きい気がするので、もう少し改善を図る。

改善策はこれ。

図が細かくて見にくいが、バイスとの当たり面の中心部に逃がしを入れている。深さ0.2mm、幅を振って変形量の傾向を見る。締め付け時に横方向も締まるようにモーメントを掛ける目論見。



逃がし幅20mmを過ぎた当たりから横変形が減少して、23mmくらいでマイナスに転じる。
やりすぎると、横方向が小さくなる方向で変形量が増えていく。

(4)結論
今回の冶具形状での良いバランスは、冶具幅は円筒直径の1.5倍以上、逃がし幅は円筒直径と同じくらい、と理解。
ダンパーユニットの伸びオリフィス部を分解するのに径違いの冶具が必要になるので、次はそんなバランスで作ろう。

丸パイプチャッキング冶具を作る(その1 自転車サスペンションのダンパーユニットの分解)


自転車のフロントサスペンションの圧縮ダンピングが効いていないように思える。
サスペンションはサンツアーのAION。
このサスペンションは一回ジョイント部が緩んでオイルが流れ出して伸び/圧縮共に効かなくなった前科あり。
この時は、んーこんなもんか、と随分長いこと放置していた。(お恥ずかし)
今回はその反動で、気になるとどうしても中が見てみたい。
ダンパーユニットを分解しようとするが、ネジが回せない。
分解するためには円筒部を回らないように固定する必要がある。
円筒部はアルミの薄肉だから、当然のことながら万力で咥えたりすると、
変形して使用不能になる。これを咥えるための冶具を作ってみた。
ダンパーユニットはこんな形。


SUNTOUR AION  ダンパーユニット


やることは簡単で、円筒にぴったり合った凹のついた当て金を2つ作ればいい。

1.冶具製作
先ず、手持ちの端材(A2017 t12)を手のこで切り出す。
(ちょっと適当すぎた)

冶具用A2017素材



外周をフライスで整え、万力の口金に引っ掛ける段差を付ける。
丸パイプチャッキング冶具ブランク切削

ブランク完成
丸パイプチャッキング冶具ブランク完成



ユニット外径をマイクロメータで当たると、Φ24.00~24.02mm。
2個合わせて4つ爪チャックで咥えて穴を開ける。穴径目標は24.01mm。
インナーマイクロでチェックしながら慎重に削る。
結果、ぴったり24.01。(いつもこんなにうまくいくわけではない)


丸パイプチャッキング冶具丸穴切削


完成
丸パイプチャッキング冶具完成

早速ユニットを咥えてみるが、滑って固定できない。
ああ、そりゃそうだ、締め代が無い。
左右の冶具の当たり面を1mm程削る。
丸パイプチャッキング冶具調整


2.ダンパーユニットメンテナンス


ユニットを咥えるとこんな感じ。
開けたら保証しないぞ!と書いてある。自己責任で。
今度はOKだが、意外に締め付け力を加えないと滑る。

SUNTOUR AION ダンパーユニット分解



どうにか分解できた。
ネジロック剤が入ってるね。
SUNTOUR AION ダンパーユニット伸びバルブ部

右側が伸び用のリリーフバルブ。細目のスプリングでバルブディスクをバルブボディに押し付けており、伸び時はスプリングを押し上げてオイルが流れ、圧縮時はバルブディスクがバルブボディーに押し付けられてオイルが流れない構造。
左側は圧縮用リリーフバルブ。太目のスプリングでバルブディスクをバルブボディに押し付け、スプリングのイニシャル荷重をネジで変化させるさせることで圧縮ダンピングを調整する。伸び時はバルブディスクがバルブボディーに押し付けられてオイルは流れない。


SUNTOUR AION ダンパーユニットバルブ部分解


圧縮減衰を出しているのはこの部分。
SUNTOUR AION ダンパーユニット圧縮側バルブ部


伸び側リリーフバルブが引っかかって開いたままになると圧縮ダンピングが抜けることになる。問題はこのへんかなぁ。リターンスプリングを伸ばしてプリロードを上げて安定させる手もあるが、伸び減衰に影響が出る。そんなことをして弄り壊すのは嫌なので、動きそうになる手を理性で止めて、洗浄にとどめる。


洗浄後、オイルを入れる。今回入れたのはROCKSHOCKSの#5。
オイルを入れながらロッドを往復させて中のエアを抜くわけだが、ロッドを往復させると細かい泡が沢山出てくる。オイルに溶けているエアが減圧で出てくるのかな。
放置して泡を抜いてから、オイルを足して、あふれさせながらトップキャップを嵌めてエアーがなるべく入らないようにする。
まあ、こんなもんでしょ。
SUNTOUR AION ダンパーユニット蓋閉め


サンツアーのフロントフォークは、ちょこちょこトラブルも出るが、ユーザーによるメンテナンスを許容する構造になっていて、かわいいやつだ。

その2に続く。